2018/12/05

第七話「送迎会①」

ワイン 
 駅前の裏通りを少し歩いたところに、その店はあった。こじんまりとしているが、お洒落な外装だ。私を含む数人は、ぞろぞろと螺旋階段を上がっていく。
「何か、お洒落な感じの店だね」
 後輩のサキちゃんが、今私が思ったことをそのまま呟く。後輩だが、ほぼ同世代なので互いにくだけた口調で話す。別に仲が良いわけではないが、どこか抜けている感じだからか割と接しやすい。

「まぁ、イタリアンやしな。でも、あんまり飲み会って感じはせんね」
「そうだね」
 サキちゃんの相槌に愛想笑いで返す。そこで会話は途切れた。何てことはない。一秒でも早く会話を切り上げたいので、そういう空気にしているだけだ。接しやすいけど、会話をしていて楽しい相手でもないし。
 今回、イタリアンだということは数日前に聞いていた。最初は意外だなと思った。飲み会というと大体居酒屋で、和食だから。
 でも、ある意味納得だった。社長は外国が好きで、ドイツやらアメリカやら、とにかくあっちこっちを旅行するらしいのだ。いつだったか、親会社の見学ということで社長の高級車に乗せられて、道中ずっと海外旅行の話ばかり聞かされた。海外はやり方次第で国内よりも安くなるとのことだが、そもそも我が家は息抜き感覚で海外旅行が出来るほど裕福ではない。
 店の中は温かく、緊張する前にまずホッとした。冬が近づいてきてただでさえ寒いのに、道中ずっと大雨だったので、所々濡れて体がすっかり冷えてしまったのだ。
 頭の痛みは、薬を飲んだこともあってだいぶ和らいだ。これなら、何とか乗り切れそうだ。美味しいご飯自体は楽しみだし。あと、甘いお酒も。
 上役や現場の上司たちは一足早く席についていた。
「社長、これ」
 道中一緒だった川内さんが、社長のところまで行ってぎこちない動作で花束を渡す。社長は上機嫌で受け取った。最初は私が花束を持っていたので、渡すのも私なのだろうと若干憂鬱だったが、事務の女の人たちに「持ってあげねや」と促されたこともあってか代わってくれたのだ。
 何だか悪いような気がしたが、何故かまんざらでもなさそうだったし、断る理由もない上に非常に助かるので、ありがたくお言葉に甘えた。川内さんは縦も横も大きく、花束を持った着ぐるみが傘をさして歩いているみたいだった。
 棚に葡萄やワインの置物があって、いかにもイタリアンといった内装だが、チェーン店のような騒々しさはない。落ち着いた雰囲気で品があり、普段なら敬遠してまず入らない。
 何というか、飲み会のイメージとはかけ離れた場所だった。
 私の勤める会社はお世辞にも大企業とは言えない。少人数でヒイヒイ言いながら何とか切り盛りしている中小企業だ。正直、社員も品とは程遠く、特に現場の人間は結構ガラが悪い。もちろんヤクザとまでは言わないが、会社に入ったばかりの頃は、チラホラ見える粗暴さが怖かったものだ。工場だとそんなものなのかもしれないが、他を知らないので何とも言えない。

 何か、調子狂うな。いや、イタリアンは好きだけどさ……。

 チラリと周りを見てみる。他の人たちは、いつもと変わりない様子で会話をしている。みんな、こういう場所に気後れしないのか。私よりずっと大人だから場慣れしているのか。それとも、単に私が気にし過ぎなのか……。
「今回は場所決まってるから。上出さんはここやで」
 所長に手招きされる。所長をはじめ、課長や田島さんといった、主に現場の男の人たちが丸いテーブルを囲んで座っていた。空いている席に腰を下ろす。サキちゃんは違うテーブルのようで、呼ばれるがままに向こうへと歩いて行った。
 向こうにも同じようなテーブルが二つある。サキちゃんが座った一番奥のテーブルには、社長をはじめとした上役たちや、事務の女の人たち、そして佐藤さんの姿があった。

 ズキリ、と胸の傷が疼く。

 一瞬目が合ったが、すぐに逸らした。急激に動機が速くなる。
 あぁ……帰りたい、今すぐに。


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